新潮社フォーサイトクラブ主催、梅田望夫さん講演会に参加しました

新潮社フォーサイト主催の梅田望夫さん講演会に参加しました。

2時間の短い時間だったものの、とても学ぶことの多い、そして梅田さん独特の視点を生で感じられる機会でした。

講演のテーマは「ウェブ社会 『大変化』への正しい対応・間違った対応」でした。

明らかにフォーサイトの読者層に対しての配慮、というかメッセージ性の強い内容になるんだろう、と思いながら講演が始まる前考えていました。フォーサイトは個人的に思い入れのある、自分にとっての思考の羅針盤として、10年以上購読している雑誌ですが、梅田さんが普段ブログなどで発信されているシリコンバレー的、インターネットトレンド的な視点とは異なり、本質にこだわった、英国エコノミスト誌のような雑誌を目指していると思います。平均年齢層もおそらく40代〓50代くらい?)なのでは、という気がします。会場にいらっしゃる方々の印象を見ても知的な雰囲気を醸し出す、スーツを着たビジネスマン風の方が多かったです。会場はやはり丸の内、なんですよね。梅田さんの講演を「ホットワイヤード」誌やCNETが主催でされていたら話の内容は非常に違ったものになったと思います。ただ、梅田さんが話をされるテーマ、‐ネット受容世代とそうでない世代のデジタルデバイド‐をお話されるにはこれほど適した場所、オーディエンスはなかったのではないのかと思います。日本が今後このネット文化に適切に対応していく時に、日本の国の大きな動きを作っているエスタブリッシュに対して、「こんな動きが起こっていますよ」、ということを伝えることが大切、と思っていたからだと思います。

フォーサイト2005年6月号「ウェブ社会『本当の大変化』はこれから始まる」
こちらの特集記事への反響が大きかったこともあり、今回の講演会が実現したとのことです。

講演の内容は驚くことにたまたま隣り合わせに座られた方がとても精緻な講演会ログをネットに掲載されています(こんなところからも改めてウェブ社会の進化のスピードを感じす)
ありがたくリンクを張らせていただきます。
http://d.hatena.ne.jp/pekeq/20050916

講演の中で梅田さんがおっしゃっていたことを以下のようにまとめてプレゼンされました
「ネット世界の4大法則と3大潮流」
第1の法則:神の視点からの世界理解
第2の法則:ネット上に作った人間の分身がカネを稼いでくれる新しい経済圏
第3の法則:(≒無限大)×(≒ゼロ)=something 消えていった価値の集積
第4の法則:オープンにすると何か生まれる

下敷きとしての3つの潮流
オープンソース
チープ革命
インターネット

話を聞きながら7年も前に手にしたFastCompanyを読んだときの気持ちが蘇えってきました。How smart people work というキャッチコピーで今も読まれているこの雑誌には梅田さんがお話されていた内容のエッセンス(もちろんブログ、Googleは当時はなかったものの)が詰め込まれていました。利益のためだけでなく、やりがい、自己実現、何か面白く楽しいものをプロジェクトとして「しごと」として創り出しいく、新たな価値観、マインドセットが盛り込まれていたものと思います。


究極の未来予想図として、今話題になっているのがEPIC(Evolving Personalised Information Construct)と呼ばれるGoogleを中心とした情報による一大帝国の誕生のビデオクリップがあります。2014年、Amazonと合併して作られる「Googlezon」が情報の蓄積・発信、そしてあらゆる個人の属性情報をBlogやSNS、メール(gmail)、映像(Tivo)の蓄積から読み取られるインフラが出来上がる、というものです。


現在の価値観では信じられないようなことが5年、10年のうちにどのような変化となって登場するのか、そして今時分たちはそのような大きな大きな来る潮流に対してどんな風にして向き合い、それを取り込んでいくべきなのか、そんなことをぼんやりと考えさせられるひと時でした。

2時間の講演の後、梅田さんがこのおそらく分かり合えることができないであろうネット社会の住人と、それを受け入れない、或いは慎重に向き合いたいと思うグループとの橋渡しをどれだけできたのか。。もしかしたら分断が広がったかもしれない、と思う箇所も正直ありました。ただひたすらに若者の意見に耳を傾けるべし、と若者に過度の期待と信頼を寄せるあまり、ネット世代特有の傲慢さを助長してしまうかも知れない。時代を経て語り継がれてきた大切な価値観、時代感覚、古きよいもの、文学や歴史などからは、今もって多くのことが学べられると思う。今ではあまり読まれなくなったかも知れない夏目漱石、いまだにエスタブリッシュメント層ビジネスマンを中心に読まれている(と感じる)司馬遼太郎、というようなものに象徴される価値観と、ブログ、SNS、そして携帯メールを中心とした短期的で感情的な情報に強く依存している可能性が高い価値観とが、今後どのように向き合っていくのか、とても興味深いです。微妙に中間層の年齢層にいる自分としては、せめてものその橋渡しができるよう、ささやかながらできることをやっていきたい、と思いました。

それにしても梅田さんのお話の中には「さすが」と膝を打つような視点がたくさんちりばめられていて、貴重な思考トレーニングであり、気づきの経験でした。どうもありがとうございました。

追記:【理解しあうことのない「二つの別世界の予感」】フォーサイト9月号より